2008.9更新 |
こちらでは、全国的にもまだ少ない女性杜氏の蔵として有名で、テレビや雑誌などの取材も大変多く杜氏の向井久仁子さんは大変有名な方だということです。 向井酒造(株)は船屋で有名な伊根湾の中にあり、長閑なゆったりとした時間が流れているようなところです。 向井酒造(株)は裏が海に面しており、小さな船なら着けることもできる浮き桟橋もあったりして、いかにも海の酒蔵という感じです。 |
こちらで造られている主なお酒は、定番の「京の春」、純米吟醸酒の「ええにょぼ」、すぐ売り切れる活性酒の「にごり酒」、古代米の赤米で造った「伊根満開」など盛り沢山です。 では、向井久仁子さんにいろいろとお話を伺ってみましょう。 |
編集局(以下「編」) 随分静かなところですね。 向井 ええ、いつもこんな感じですね。道路ができてから余計静かになりました。 編 ところで、向井酒造さんはいつ頃から営業されているんですか? 向井 創業は江戸時代中期の一七五四年と聞いています。 編 女性の杜氏ということで珍しいと思うんですが、いつ頃からされているんですか? 向井 八年ほど前になります。私が杜氏になったときは特に女性だからということは意識されていなかったみたいです。それより、若いのにいきなり工場の責任者になったことで、一時的にぐちゃぐちゃしてた事がありましたね。 私の下で働いてくれる人が、ものすごく年上の人ばかりで、今では高齢の方は一人しかいませんが、あの頃は七〇代の方をはじめ六〇代の方も何人か居られましたのでね。 編 今、三二才ですから、八年前だと二四才頃ですね。 向井 二二才で家に帰ってきて、二三才から杜氏を始めたんですよ。農業大学に行ったのも無理やり行かされたようなものだったんですが、実際行ったらすごくいい感じだったんです。指導してくださる教官が大変良い先生で、今までそういう先生に会ったことがなかったもので、楽しくやらせていただいておりました。家に帰って来たときは手伝いから始めたんですよ。 編 妹さんが帰ってこられているということなんですが。 向井 ええ、一緒にやっています。妹は杜氏はしたくないということで蔵人として頑張ってくれています。弟も大学から帰ってきたら手伝ってくれると思います。弟は杜氏よりも経営のほうをしたいらしくて、私が杜氏を続けて、経営のほうは弟に任せようと思っています。 |
造るお酒は種類豊富 | ||
向井 ご覧のように小さな酒蔵なので、多くは造れませんがお酒を造りだした頃、とにかく楽しくて、蔵のおっちゃんたちと仲良く仕込みをしていましたが、もうちょっと流行の酒なんかも造れたらなあ、と思ったんです。で、父にああしたらとか、こうしたらとか言っていたら「じゃあ、おまえがしろ」ということで、正式に杜氏になったんです。次の日から張り切って杜氏としてやっていたら、皆に無視されたりとか最初の頃は大変でした。 編 タンクはたくさんお持ちなのですか? 向井 小タンクが多いんですが、やはりタンク不足になりますので、一気に瓶詰めしてしまうこともよくあります。 編 一気にですか? 向井 ええ、私はどちらかと言えば早く瓶詰めする方が好きなのです。酒はできたてが美味しいですが、足が早く味がすぐ変化してしまいます。そこで、悪くならないうちに火入れをして、タンクに入れておくのですが、少しずつタンクから出していくとタンク内の空気が増えてきて、酒の味が変わってしまうんです。ですから、味が良いうちにビンに詰めてしまい、空気に必要以上にあたらせないようにしているんです。 編 開発した新酒で今も造りつづけているものは、どのくらいあるんですか? 向井 そうですね、毎年新しい種類の酒に挑戦してすぐにやめてしまったり、というのもたくさんありますので、余り出ないものも含めると六~七種類というところですね。実は、私の恩師が新酒開発の好きな先生でして、いろいろとヒントを下さるのでどんどん造ってみています。それが、すごく怖い先生で作業が遅れたりすると、ものすごく怒られたりもするんですよ。でも、そこが良いんですけどね。「バカヤロー、早くしろ!」ってね。そうやって尻を叩いてもらわなかったら何もできなかったと思いますよ。そんな先生ですので、変わったお酒が多いんです。 向井 こういう風にしたらこうなるかな、と思いながら造ってはいるんですが、まだ思い通りにはいかないですね。毎年、相談をしながら工夫をしていまして、他の蔵のおやっさんから聞いたヒントを基にいろいろ考えてやってはいるんですが、思い通りにはいきませんね。 それから、現在は昔と違って衛生管理がしっかりしていますので、製造段階で酒に雑菌が入ることは殆どなくて、酒造そのものについての失敗はありません。 |
従業員は少数精鋭? | |
向井 仕込みのときは別として、私と妹と近所のおっちゃんの三人です。あと、父が経営のほう(といっても請求書出しと配達が中心ですが)、母が経理のほうをしています。実は対外的な交渉事は母がしているんです。私は、酒造りといろんな付き合いなんかで、いつもバタバタしています。 編 この頃は女性杜氏も増えてきたと思いますが、全国で何人くらい居られるんですか? 向井 私が知っているのは、全国で一〇人前後ですね。京都には私と亀岡にもう一人居られます。 編 女性の杜氏ということで困ったことは何かありましたか? 向井 それはなかったですね。帰ってきた頃は、「女かて何でもできる」と意地になってもいましたので、本当に手間を取らせてしまいました。「女やさかい、と思われたくない」という部分があってちょっと一人で背負ってしまっていたんですね。それがふっ切れ、自分が女であることを認めて、人にお願いできることはお願いしはじめると皆がついてきてくれたんです。 |
酒の味は酵母で決まる | |
向井 家の所有する酵母には「京の春酵母」と「松酵母」というのがあります。京の春酵母は父が学生のときに分離したもので、松酵母は私が学生のときに家の松から分離したものです。酵母の管理は大変面倒なもので、個人では難しいんで大学に預けたりしています。 普通、酒蔵では主な酵母は自前のものではなく、殆ど日本醸造協会が出している酵母を買ってきて使っているのが現状です。その方が、酵母の管理がしっかりしていて安全なのです。 編 酵母の種類で味が変わったりするんですか? 向井 大分変わりますね。香りが出る酵母があったりしますので。酵母が変質しても味が変わってしまうので、管理が大変なんですよ。 |
久仁子さんの夢、そしてチョット自慢 | |
向井 前はいろいろあったんですが、従業員が少ないので何とかしなければと思っています。仕事が終わると廃人みたいになっていることもありますのでね。それと設備を充実させたいですね。今は樽を氷で冷やしているんだけど、他の蔵では樽にマットを巻いてスイッチひとつで冷水で冷やすことができるようになっているんです。 こんなに小さな蔵なんですが、お客さんとゆっくり呑める場所なんかも提供できたらと思っているんですよ。蔵を見に来てくれた人たちとちょっとした場所で美味しい酒を呑んでもらって、昼から楽しんでもらいたいと思っているんです。なにもオシャレな場所でなくて良いんです。地元のおじさんなんかも一緒になって呑んで騒いでもらいたい、と思っています。そんな場所を提供したいんです。 編 やはり久仁子さんはお酒が好きなのですね。 向井 はい。大好きで、相当呑みますよ! 編 ところで、向井酒造の自慢のようなものはありますか? 向井 実は私の先輩が、自分の家の酒蔵が一番海に近い、と言っていたので私の家も近いよ、と言ったら、嘘つけ!と言われました。でも、この間テレビで私の家の蔵が映ったら、「近すぎるじゃない!」と電話があったんですよ。 |