シリーズ企画

京菓匠 甘春堂 下編

2005.6更新

甘く感じない砂糖菓子
編集長 お茶の先生からの注文が一番きついとのことでしたが。
木ノ下社長 ええ、菓子屋に言わせると、ほんとに大変なんです。目も舌も肥えておられる上に変わったものを求められるし、季節なんかもはずせません。お茶や茶碗の色に茶道具などとの取り合わせも必要になります。もっともそれが文化なんですけれどもね。
 ところで、この「茶寿の器」は、はじめお遊びで作ったんですが、お寺さんやお茶の先生などが面白がって注文制で出ていたものが30年ほど前に新聞に載りまして、そのうち色々と広がっていったんです。原料は砂糖ですので、製法は変わっていますがれっきとしたお千菓子です。お茶碗としても3~4回は使用できるんですよ。
 最近、甘さ控えめとかが流行っていますが、和菓子の世界では甘さを控えては具合が悪いんです。小豆に砂糖を入れなければおかずになってしまいますものね。小豆は砂糖を入れて初めてお菓子になるんです。ですから洋菓子のように砂糖を控えられません。そこで、1つひとつを小さくしたんです。実は、上生菓子でも今では40~50グラムが中心ですが、昔はもっと大きかったんです。大きかったら甘いけど、小さくすることによって甘いと思ったらもうおしまい、というふうにしているんです。お千菓子もどんどん小さくしてはいますが、砂糖などの配合は変えておりません。和菓子は洋菓子と違って一度にそうたくさん食べるものではないんです。うちはお菓子を作っているのであって、おやつを作っているのではないんです。お菓子ではお腹を膨らます必要はないんです。それが文化なんです。思い切り食べるものではないんです。
 和菓子の場合基本的な原料は砂糖です。京都で和菓子が発展した理由は、砂糖以外の原材料は全て近郊で手に入るからなんです。お米は近州米、笹は鞍馬、ゆずは瑞穂町、小豆は丹波という具合です。全て歴史があります。うちでは出所のはっきりしたものしか使いません。

色とりどり

編集長 今、皆さんが一番心配されているのは添加物ではないかと思いますが。
木ノ下社長 はい、お千菓子はよく色素を使いますが、天然と人工のどちらをとるかが大変難しいところでして、結局はお客様に選んでいただいています。
 和菓子の多種多様な色彩はその特徴でもあるのですが、今では天然色素を色々研究し、安全な天然色素でほとんどの色をつけることができるようになりました。天然着色では赤色が一番難しかったですね。紅花やコチニール色素、紅麹色素などで試しましたが、紅花では全然色がつかず、動物性のコチニール色素や紅麹色素を使っています。緑色はお茶が一番良いみたいですが、苦みがついてしまうのと、すぐに色が変わって番茶色になってしまうんです。色をつけるのに大変便利なのが「クチナシ」でして、青や黄色、緑というふうにいろんな着色用に使っています。黄色の着色料としては他にサフランがありますが、少し値が張ってしまいます。こういう着色料は少しの量で色がつき元の味を変えない、ということが大切なんです。天然物は色が悪いといって嫌う方もおられますので、人口着色も使っています。お寺さんの中には絶対天然でないとだめとおっしゃるところもありまして、上生菓子も天然でさせてもらっています。
 ところで「菜々」も、季節によって中に入れるものを変えています。5月は新茶を入れています。

生でない生菓子
編集長 こちらの和菓子はどのくらい日持ちするんですか。
木ノ下社長 お千菓子は和菓子の中でも結構日持ちはするんですが、それでも3ヵ月くらいです。乾燥もありますが、香ばしくなくなるんです。皆さんはあまりご存知ないかもしれませんが、あんこも3~4日で味が変わるんですよ。生菓子とはいいますが、本当は生ではありません。和菓子屋は火を通したものしか使いません。あんこも保存食なんです。3~4日でだんだん甘くなっていくんです。最初あった香ばしい味や香りが3~4日でなくなると、甘さだけが残り美味しくなくなって来るんです。
 甘いばかりのものは、基本的に日持ちします。水羊羹なんかは、店によっては半年くらい前から作っています。うちが夏場に作っている竹入羊羹は、あまり日持ちしません。本物の竹に入れているのに加えてあまり甘くしていないんです。しかもほのかな小豆の香りも残っているんです。特に小豆は香りが弱いんです。炊いている時は匂いがするんですが、すうっと消えてしまいます。
 東京のデパートから「竹入は日持ちしないので何とかならないか」と注文が来たことがありました。水羊羹もプラスチック容器に入れれば、最高で半年くらいは持ちますが、どうしても竹入にこだわり、お断りをしました。
 「羊羹をなぜカットしておいてくれないのか」と東京のデパートでお客さんに言われたそうです。だんだん、お金はあっても生活に余裕がなくなってしまったのでしょうかね。そういうことがもとで「東京には文化がない」と言ってデパートの部長と喧嘩をしましてね。「田舎ものばっかりや。もう売らへん。撤退や」てね。
 京都は田舎であり、都会であり、ちょうど具合の良いところなんですよ。

甘春堂 本店
京都市東山区川端正面大橋角
電話(075)561-4019

甘春堂 東店
京都市東山区川端正面東入る
(豊国神社前)
電話(075)561-1318

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